木島泰明先生留学便り6

留学便り6-パリのアパルトマン-

もういやだ、虎太郎を連れて日本に帰る、と妻が1日おきにしか言わなくなったのは、彼女の2月5日の誕生日を過ぎたあたりからだ。そんなにここから逃げたいと思わせる原因の多くはこのアパルトマンだろう。

パリの物価は高い、パリでリーズナブルなアパルトマンを探すのは至難のことだ、と聞いていたし、そうなのだろう思っていた。

我々の家は(と言うといつも妻は、あれは家ではなくただの部屋だ、と言う)、パリ15区のポルト・ドゥ・ヴェルサイユにある6畳一間ロフト付きのアパルトマンである。つまりリビングもダイニングもキッチンも兼ねた6畳程度の部屋に、展開するとダブルベッドになるソファが1つと40cm×60cm程度の小さいテーブルが2つに椅子が4つ(うち1つは3週間で壊れた!)がある家具付きだ。その他にいわゆるユニットバス。それとシングルベッド分のロフト(梯子で登る。天井までの高さ80cm)もある。そして靴で生活するために作られているため玄関はなく、だけど玄関のドアは内開きなのでドアを開けたときにドアが通るスペースが必要であるため、そのスペースで我々は靴を脱ぎ、そこに靴を置く(しかない)。ちなみにユニットバスのドアは外開きで、ユニットバスのドアが開くスペースも、その靴を置いているスペースというわけだ。つまり玄関ドアを開けるたびに靴は奥へ押しやられ、ユニットバスのドアを開けても押しやられ、玄関のドアとユニットバスのドアは同時に開ければぶつかるし、靴の脱ぎ履きも1人ずつしかできず、3人で家に帰ってきても、まず1人が入り、ドアを閉め、靴を脱いだら、次の人がドアを開けて中に入ってドアを閉めて靴を脱ぎ・・・を繰り返さなければならない。

当然ソファを展開すればその6畳ほどのスペースはソファベッドで占領され、そこに妻と虎太郎が寝て、ロフトに僕が寝ると荷物を置く場所もない。仕方ないので荷物はスーツケースやダンボールに入れたままテーブルの下に置くことになる。それでも置けない荷物はロフトの上の布団の上だ。

妻が我慢できないのはその部屋に日本円にして月に約25万程度支払っていること。虎太郎の幼稚園は日本人学校なので、ママ友も日本人。子供が幼稚園に行っている間にママ友同士でランチを食べたり(僕はまだフランスでフレンチを食べていないが、妻はフレンチもイタリアンも食べたらしい)、子供を連れてお宅を訪問し合ったりしている。この時に妻が見てきたというママ友のアパルトマンはみんな広く、特に大きいところは秋田の我々の家よりも広い!のにもかかわらず、家賃はうちより安いのだという(しかもその家賃のほとんどは会社が払ってくれているらしい)。日本企業のパリ支店に勤めている方の奥様達とのことだ。

なぜ我々のアパルトマンが高いかといえば、日本の業者さんがパリに短期滞在する人のために1日当たり何ユーロという単位で又貸ししているものだからである。フランスの不動産屋さんと直接交渉し、直接契約すればもっと安くもっと快適でエッフェル塔も見える(ママ友たちのアパルトマンからはしっかり見えるらしい!)ところが借りられるということが判明した(これが判明してから妻はお怒り続き)。ではどうすればよかったか。日本から借りられる場所をまず1か月くらい借りておいて(ホテルでもいい)、その間にフランスで住居を探すという方法をみなさんは取っているようです。しかし、ここでビザの問題が出てくる。我々は就労しないために「ビジタービザ」を所得して渡仏している。しかしビジタービザの申請には渡仏後3か月間の住居の契約がすでになされている証明書が必要であり、さらに渡仏後それを移民局に届け、移民局からその住所に召喚状が届くのをしっかり受け取る必要がある。そして、その召喚状の通りに移民局に出向き、健康診断を受けて、やっと晴れて滞在許可証ゲットとなる(これもすったもんだありましたが、なんとか2月27日にゲット)。つまり、少なくとも3か月分の住居の契約は日本でやっておく必要があったのだ。そして僕達のパリ滞在は4か月なので、4か月分契約してしまっており、すでに入居してしまっている場合には、早めに退去してもお金は一銭も戻らない(ということもこちらに来て判明)。仕方なくそのまま修行のような生活を送っている次第です。

(ビザの問題の解決策が実は1つありました。ビザは180日間に90日以上滞在する時のみ必要なので、90日滞在し、一度帰国し、90日以上日本に滞在した後にフランスに再入国すれば、ビザなしでまた90日間フランスに滞在可能です。そのように3か月サイクルの行ったり来たりで1年間のフランス留学をされた整形外科医も実際にいらっしゃるそうです。ちなみにヨーロッパ各国を回っている駐在員さんの話では、どこも事務手続きがすごくイイカゲンで遅いのでビザを取るのが大変だけどドイツだけはしっかりしているとのことでした。フランスも就労ビザや研究者ビザが取れれば入国後の手続きはスムーズで引っ越しも容易のようですが。)

ところで、ヨーロッパの多くは水道から硬水が出ます。お湯を沸かせばポットや鍋にびっしり石灰(こちらではこれをカルキと言います)が沈着します。それを落とすには酢を沸かす必要があります。でもいちいち酢を沸かしてカルキを落とすのが面倒なのでミネラルウォーター(エヴィアン)を使ってみたのですが、それでもカルキが沈着します。よく見たらエヴィアンも硬水でした(^^;)。唯一売っている軟水のミネラルウォーターのヴォルヴィック(Volvic)で解決しました。洗濯機もカルキでつまらないようにアンチカルキ剤を入れて回します。問題はシャワーでした。硬水で洗うと、髪はガサガサ、肌もボソボソで痒くなるのです。だからこちらの人は週に2回程度しかシャワーしないという話もあります。しかし、これを解決する特殊なシャワーヘッドがありました!フランスでは売ってなくて結局イオナックという会社からネット通販で買い、海外搬送してもらいました。こんな風にして少しずつ少しずつ、適応を図っています。

隣近所の音が聞こえるのも、古い建築物を利用しているパリのアパルトマンの特徴だそうです(もちろん立派なアパルトマンはそんなことないようですが)。うちの虎太郎もとても騒がしくご近所にご迷惑をおかけしていると思いますが、隣の女子のあの時のあの声も相当でした(虎太郎も苦笑いです(-_-;))。おかげで週末はできるだけ家族で外出し、あちこちパリ観光を楽しもうということにしております。できれば外泊を、ということで、一度ディズニーランド・パリにも行ってきました。それらのお話はまたの機会に致しますので、楽しみにしていてください。

パリも3月に入り、ようやく寒さも一段落したようです。4月には多少の追加料金で3週間くらいだけですが、もう少し広いアパルトマンにも移れそうです。ようやく妻の、もう帰る!宣言も週に1-2回に減ってきました。考えてみれば、こんなに多くの時間を家族でこんなに近接して過ごすこともないだろうと思うので、もう少しこの修行を楽しみたいと思います。

(追伸:このアパルトマンの数少ない自慢の1つは、知る人ぞ知るあの「ラ・リューシュ」のすぐそばだということです-歩いて5分!-。きっと妻の好きなシャガールもこのあたりを歩いていたことでしょう。)写真1            ↑どんなに狭くてもトミカタウンを作る虎太郎

写真2            ↑暖簾を買ったり、張り紙をして少しでも華やかに

写真3             ↑カーペットや枕カバーも新調

写真4             ↑から揚げパーティ(テーブルぎりぎり)

写真5             ↑引き出しのある収納スペースがほしい

写真6             ↑玄関がないのが痛い!

写真7            ↑ソファーをベッドにするといっぱいいっぱい

写真8            ↑ロフト部分はこんな感じ

写真9            ↑どんなに狭くてもトミカタウンを作る虎太郎