留学便り12   (木島泰明)

2015年1月から半年間のフランス研修をさせてもらっております。2015年3月から4月までは、パリのClinique Maussins-Nollet で研修させていただきました。今回はこのクリニックの股関節外科医、Alexis Nogier先生の人工股関節置換術(THA)についてレポートしたいと思います。(今回は少し専門的な情報です。)

 

ヨーロッパで唯一(とのことでした)のカスタムメイドステムを作成している会社 ”Symbios” というメーカーのものを基本に使用しているのがNogier先生のTHAの特徴です。摺動面はCeramic on Ceramicが基本。スクイーキングについて聞いてみると、そういう症例はまずいないし、起こるとすればマルポジションのせいではないかというご意見でした。

 

アンリ・モンドール病院ではTHA症例のほとんどはプライマリーのようなケースでしたが、Nogier先生のところに紹介されてくる患者さんたちは軽度ではありますが、寛骨臼形成不全由来のOA(変形性股関節症)と思われる患者さんも半数近くはいらっしゃいました。ただほとんどは骨移植を要さない程度の形成不全です。

 

Nogier先生のTHAは、フランス人Robert Judet考案の牽引手術台を用いた仰臥位での前方進入法を用いているのがもう一つの特徴です。皮切は上前腸骨棘の下1横指くらいから腓骨頭へ向かう方向に約12 – 13cmくらい。いわゆるMISのアプローチの1つであるdirect anterior approachを使用していますが、皮切長ではなくマッスルスペアリングにこだわっているとの事。ただメインの皮切は短めで済ませて、リーマーを入れるだけの別の皮切を置く2皮切を用いる場合もありました。

 

Nogier先生は高めの椅子に座って執刀します。このアプローチでは少し下から覗き込むようになるため、術者が立って手術台を高くするよりは、術者には座ってもらって、助手は立ってやる方が確かにやりやすいと感じました。また、このアプローチでは、外側大腿皮神経損傷が問題になることがありますが、注意して慎重に皮膚切開と最初の展開をしているためか、知覚鈍麻が起こる症例は5%程度あるそうですが、半年程度で症状がなくなることがほとんどで、paresthesiaを起こして治療が必要になった例は数百例中1例のみとおっしゃっていました(その症例も数か月で治療は不要になったそうです)。

 

最初はアドソン開創器を使い、深くなってからはチャンレー開創器を使用していました。必要に応じてホーマン鈎を前方や下方にかけています。展開時の血管は必ず結紮されていましたが、よりディスタールの血管には触らず、それより近位で勝負する、というようなことをおしゃっています。

 

関節包は基本的には温存せずに切除しています。大腿骨頸部をカットしたら少し牽引。頸部は2か所で切って輪切りにすると取りやすいようです。輪切りにした頸部のみ取ったあとでコルク抜き状の骨頭抜去器ではなく、20ミリ程度のノミを骨頭に頸部側から差し込んでぐるぐる回して骨頭を取っていました。これも使える技かもしれません。ここでさらにほんのちょっと屈曲位で少し牽引すると臼蓋が結構よく見えます。

 

関節唇を切除して(あまり骨棘を取らなければいけない症例は多くない)前後壁及び上方の臼蓋縁が触れられればリーマーへ。カップのリーミングは指で触った感覚、すなわちリーマーやトライアルカップと寛骨臼の辺縁の差を触診した感じでCTテンプレートとの相違がないように掘る方向を確かめながら、基本的にはどの症例も「なり」に設置するという感じでした。ダブルフロアが消えて外板が少し削れればOKとしています。セイムサイズのリーミングで、プレスフィットが弱いと感じた時のみスクリューを併用されていました。本物のカップを打ち込んだ後で前開きが強すぎたとかいう場合には結構あっさりやり直しをされていました。スムーズにいくと、カップ設置まで15分です。日本ほど洗浄をしないせいもあるかもしれませんが、早いです。Anterior approachではカップが立ちやすく前開きがつきやすいので注意して、とアドヴァイスを頂きました。

 

大腿骨側を処置する時にはトラクションをゆるめて最大外旋位にして、小転子からの骨切りの高位を確認します。そして必要ならネック切り直し。OKならば牽引台の力で、股関節外旋位のまま、伸展かつ内転位に持っていくと髄腔が良く見えてきます。最大外旋位にしているので、髄腔の内側がほぼ天井を向く格好になります。

 

短外旋筋群の手前まで大転子の後方のカプセルをリリースして、そこにホーマン鈎をかけて下から大腿骨を持ち上げる、あるいは短鈍鈎で大腿骨をぐっと1回持ち上げることで緩ませる、とのことです。ラスプがある程度入っちゃえばホーマン鈎を外してもラスピングできるようです。ラスピングは弧を描くようにして、決してまっすぐに入れようとしないようにと注意して下さいました。

 

カスタムメイドステムとは、その患者さんの髄腔に合わせて作ったオーダーメイドステムです。そして、もちろんラスプもそのステムの形と同じカスタムメイドラスプ。通常のラスプのように小さいものから順番に大きくしていけず、1つしかラスプがないのでまずは鋭匙で髄腔内の海綿骨を掻き出してから、そのラスプでラスピングします。その患者さんの形に合わせて作っていますから骨切りの位置が間違っていなければ予定の位置まで入るはずですし、入らなければ何かがおかしいということになります。大抵は大転子部分の外側の海綿骨が残っていることが多いのでそこを鋭匙でまたガリガリやってラスピング。目標の位置まで入れば、それ以上は入らないはずなので迷わず本物のステムへ。そして当然本物もその位置まで入れば、ヘッドの中心も設計者が意図した位置に来ることになるわけです。すばらしい! もちろんカップが意図した位置に入っていれば、の話ですが。つまり、カップは「なり」に入れたとしてここに入る、とすれば脚延長何ミリでコンバインドヴァージョン何度でオフセットが小さくならない(基本的にはオフセットを変えないように)その患者さんに合わせたステムをCTデータをもとにオーダーメイドで作成しておけばいいわけです。

 

高齢女性など骨質が悪い時にはセメントのカスタムメイドステムを使用しています。セメントは抗生剤なし。セメントテクニックはアンリ・モンドールと同じでした。ヘッドをつけたら外旋から内旋に戻しながらヘッドを内側に押して整復します。整復したら伸展位から中間位に戻して牽引を解除。ここで中間位のまま少し外旋して前方脱臼しない事を確認。外す時は短鈍鈎で引っ張りながら牽引して外旋。縫うのは筋膜と皮下のみなので、スムーズに行けば30分で終了です。

 

カップが小さくて骨頭が28mmしか使えない時には出来るだけカプセルも前方を切ってめくっておいて後で縫合していました。ちなみに、このクリニック、8月はバカンスのシーズンなので手術なしとのこと!フランスではバカンス第1!なので、8月あたりはお店もしまっているところがほとんどだそうです!フランス旅行の際には要注意です。

 

Nogier先生は、外来でTHAの適応の人がいれば自分のフィロソフィーを説明するのだ、とおっしゃっています。つまり、自分はDirect anterior approachを用いており、muscle sparingを大事にしている、そしてより精度を高めるためにはカスタムメイドステムを勧めます、というお話を患者さんにして、同意していただけた場合には手術の予約を、という形になりますが、カスタムメイドステムは通常のステムより患者さんが支払う値段も高いので、そこだけ同意いただけない場合は少し安い通常のステムで手術を行うこともあります。

 

THA後数か月から数年で出現した股関節前方の痛みで、腸腰筋を使う動きで痛い場合には腸腰筋インピジメントでしょうという症例も結構いました。その場合にはまずラディオロジストにお願いしてエコー下に腸腰筋に局麻を注射して痛みの取れ具合を見て診断。腸腰筋ブロックでの除痛で不十分であればスコピックに腸腰筋腱切除をしていました。THA後に脱臼を繰り返すのでデュアルモビリティカップに変えたら腸腰筋由来の痛みが出たという症例も紹介されてきていました。

 

FAI由来や軽度の寛骨臼形成不全由来の関節唇損傷がメインの痛みのような患者さんでも、CTで一部でも関節裂隙が1mm以下ぐらいまで狭小化している部分があれば関節鏡ではなく迷わずTHAを勧めるようです。痛くてサッカーができないという主訴の変形性股関節症の方が来た時に、サッカーはTHA後半年からやっていいと言っていたのも少し驚きでしたが、サッカーを辞める?それともTHAをやる?という2択を提示できるところがすごいと思いました。保存治療を選択した場合には、家庭医のようなかかりつけの先生にお願いしてNSAIDsを投与してもらうか、放射線科に依頼して定期的にステロイドの関注をお願いするか、という感じでした。

 

THA後の痛みでエコーによる軟部組織の評価やCTによるインプランテーションの問題を検索しても原因がはっきりしない時には、骨シンチを重視していました。感染よりもゆるみの可能性をシンチで判断することが多いようです。痛みが強くシンチで明らかにアップテイクがあればすぐにリヴィジョンを勧めていました。ただ、もちろん触診や採血結果で感染が強く疑われる症例はやはり放射線科での関節穿刺と培養を勧めています。

 

THA後の反復脱臼で紹介されてきた患者さんの場合には、デュアルモビリティカップに代えてオフセットを付けて、可能なら外旋筋の修復も行うというのが基本方針のようです。リヴィジョンの理由に寄らず、基本的にリヴィジョンの手術に関してはdirect anterior aproachではなく、側臥位の後方アプローチで入っていました。ちなみに、プライマリーTHAでも、75歳以上の患者さんの場合には、第1選択でデュアルモビリティカップを使用する、という方針のようです。

 

おまけですが、このクリニック、膝の、特に人工膝関節置換術に関しては、パリで2番目に多い件数を誇るようで、1回見せてもらいましたが、ブレインラボのナビを使って、機種はデピューの、セメントレスの、モバイルベアリングTKAを施行していました。執刀医の話では、術中に麻酔下でスタビリティをチェックすると少し不安定かなと心配になって「スティフ」にし過ぎちゃうことがあるので、その辺を注意したほうがいい、というアドヴァイスを頂きました。そして、ナビを使ってはいるけれど、ナビの結果にこだわりすぎずに、その患者さんに応じて微調整が必要だと教えてくださいました。ちょっと驚いたのは、手術の最後に顆間部に結構な量のサージセルみたいなものを留置してきている点でした。タニケット開放後の出血を押さえるのに効果的だそうです。そして滑膜は出来るだけ残すようにしているそうです。ACL再建はSTをグラフトにしたシングルバンドル再建で30分くらいでこなしておりました。TKAもACLも看護師さんと2人だけで手術されていました。Nogier先生のTHAも僕のようなフェローがいない時にはミラさんと2人だけでやっているそうです。

 

写真1-2

↑圧布のかけ方。牽引台を外から操作しやすいように片足ずつではなく、両足にバサッと圧布をかけます。露出部分は皮切開部位のみ。チャンレーの開創器を使用。

写真2-2

↑CTでカップ側の3Dテンプレーティングを行い、オフセットや脚長などを設定するとステムの形状が決定され、自動的に描画もされる。2週間後にカスタムメイドのステムが完成する。

写真3-2

↑左が実際のカスタムメイドステム、右がカスタムメイドラスプ。下はカスタムメイドセメントステム。頸部骨切りラインも3Dテンプレーティングから自動的に算出される。

写真4-2

↑術後のレントゲン写真と応力解析の図です。Alexis Nogier先生には最先端の手術を見せて頂いただけでなく、パリ滞在に関しても多大なるお世話をして頂き、本当にありがとうございました。